音声の知覚過程

 

 音声知覚過程を便宜的に分解してみると次のようになる。

 音声のなかで果たす役割についていえば、母音と子音とでは異なる特徴をもつ。

 音声のリズム、小ントネーション、個人性、情緒性、方言の違いなどの情報はほとんど母音によって担われており、したがって音声のなかで母音の果たす役割は声性的であるといわれている。一方、音声中の子音の働きは、なによりもまず音韻的である。子音のなかでも閉鎖子音(破裂音)はとくに多くの音韻的情報を担っているレ

 母音と子音(特に閉鎖子音)のこのような違いから両者の知覚的差異が当然予想される。

 物理的特性の異なる音響波が異なる音として知覚される場合、これを「連続的知覚」という。一方、物理的特性の違いにもかかわらず、ある範囲内の音響波が同一の音として知覚される場合、これを「範疇的知覚」と呼ぶ。

 母音の知覚は「連続的知覚」であり、閉鎖子音の知覚は「範疇的知覚」である。そして、他の子音の知覚は、これら両極の中間的な特徴を示すと推泌されている。

 合成音を用いた実験研究によると、閉鎖子音、たとえば〔b〕や〔d〕の知覚については、第2ホルマントの変移部分が大きな手がかりとなる。5ないし6という変移部分をもつ音節は〔da2〕として、1~4という変移部分をもつ音節はいずれも〔bJ〕として知覚されるのである。すなわち、5という変移部分をもつ音節と6という変移部分をもつ音節とは、物理的な違いにもかかわらず同じ音として知覚されるのである。

 次に、閉鎖子音の知覚にかんして、VOTに触れておく。

 VOT (Voice Onset Time)というのは、閉鎖の解除(破裂)時と声帯振動時との時間差のことである。なお、たとえば〔p〕の音を発する場合のように、両唇を閉じることによって口腔外への呼気の排出をいったん停止した後、両唇を急に離して呼気を排出することを閉鎖の解除という。

 有声の閉鎖子音(たとえば、〔b〕)と無声の閉鎖子音(たとえば、〔p〕)とを区別する手がかりとなるのは、このVOTの値である。

 Liskerらの実験結果では、 VOT値が+ 25msec以下の音節は〔ba〕として、+ 25msec以上の音節は〔pa〕として、「範疇的知覚」がなされた。

 ところで、〔ba〕と〔pa〕とを分ける+ 25msecというカテゴリー境界はすでに生後1ヵ月にして成立することを示す実験結果が提出されている。発音はまだできなくとも知覚だけはできる、ということを示唆するこのような実験結果は、音韻は聞き手の発声運動を仲介として、それとの無意識的な比較によって知覚されるという「発声機構比較説」(後に「運動指令比較説」に発展)や音声知覚における楫音運動の役割を強調するレオンチェフ仮説(松野豊訳、レオンチェフ、 1967年)との関連で興味深い。