音声の物理的性質

 

 「話しことば」の意味的符号(信号)としての役割を担うのは、音声の音響的・物理的性質である。人間の聴取可能な音響的世界としての聴野のなかで、話しことば(音声)は、そのもっとも中央の最適な範囲を占める。

 語音を構成する周波数成分はかなり複雑であり、純音(単一振動)一楽音一騒音一白色雑音というように、もっとも単純な構成からもっとも複雑な構成の音までの配列からすると、ほぼ楽音と騒音の間に位置している。

 しかし、音声はもともと声帯の振動、いい換えると声帯の開閉による断続呼気流のくり返しから作られるので、音声の音響的な特性は、まず第一にこの声帯振動の特性に依存する。この声帯振動波は成人男子で60~500HZ(約3オクターブ)、成人女子と小児では240Hz (約2。5オクターブ)範囲にある。話しことばでは男子がおよそ120Hz、女子が240Hz周辺にある。これが声の高低の調子(ピッチ)をきめる。

 実際に聴取される音声は、この声帯振動が、そのあとに続く共鳴器官を経て構音されたもので、この共鳴を経過する段階で、特徴的な周波数成分の構成が決まってくる。語音の区別をあらわすこの共鳴周波数成分を、ホルマット(formant)とよぶが、ひとつの語音(たとえば〔a〕)の周波数成分をみると、声帯振動そのものの基本周波数のほかに、その語音に特有なホルマントが複数存在することがわかる。これを周波数の低い方から順に第1ホルマント(FO、第2ホルマント(Fa)……というように名づける。声帯振動の基本周波数はFoとよぶ。母音のホルマントは、語音のなかでは比較的単純であって、F。R、F3によってほとんど特徴がきまる。とくにF1とF2をX、Y座標にとって母音の特徴をF、―F2ダイヤグラムという。 Fi―F2ダイヤグラム上で各音間の周波数距離の区分が明瞭であるほど、弁別匪のよい語音といえる。幼児では、はじめは各音の領域がかなり重なり合っているが、2歳近くになるとこれがよく分化してくることがわかる・

 子音のホルマント構造は非常に複雑であり、また時間とともにそれがはげしく変動する。

 ところで、声帯振動による基本周波数も、また共鳴特性を左右する声道の長さや容積も、男女差と個人差が大きい。したがってホルマント周波数もそれぞれ異なるはずである。にもかかわらず〔a〕と発声すれば〔a〕として共通に聴取される(これを語音の音韻性という)のは、ホルマントの絶対周波数によるものではないことを示している。FIとRの相対的な周波数位置関係、あるいはFoからのFi、 F2の相対的な周波数距離などによるものとされる。

 子音の周波数成分をみると〔s〕〔刀などの摩擦音には高周波数帯域成分が多い。音響エネルギーも小さい。これらのことから、幼児でのサ行、シヤ行音の習得は、比較的遅い時期(4歳すぎ)に仕上がり、とくに聴覚障害がある場合などに、サ行音の構音障害があらわれやすい。

 なお、無声音(ささやき声)は、声帯振動をともなわず、連続的な呼気をそのまま使って音韻性をもたせた音声である。したがっていわゆる音の高低がない。