実験的小頭症

 

 EC効果がとくに後頭皮質に著明にみられることはすでに述べた。後頭部には視覚中枢があることから、視覚入力がEC効果をもたらしているのではないかということが当然考えられる。そこで両眼を出生直後に摘出したり、暗黒の条件下をずっと続けながらEC、 SCにおいてみると、やや程度は落ちるがEC効果が認められる。このことから、視覚入力は本質的な重要性をもたないと考えられている。

 この後頭皮質を生後間もなくに両側性に除去すると、成育後の迷路学習が著しく阻害される。しかし、この大脳皮質の傷害による学習能力の低下が、 EC飼育によって大幅に代償・改善される。Hebb-Williams迷路テストでしらべた成績で、①皮質切除群が正常群よりエラー(12課題の合計、ただし8回の試行中、第1試行を除いてある)が多い、②正常群も障害群もECでICよりエラーが減っている、③障害群ではECでエラーが低下するが、それでも正常群のICよりはるかにエラーが多いことがわかる。メチルアソキシメタノール(MAM)という毒物があり、これを妊娠中のある時期に与えると、出生仔がすべて小頭症になる。わたしたちはこのMAMを使って、大脳重量が正常の約70%という小頭症動物を作り、それらでも迷路学習のエラーがECによって減ることを見た。

 小頭症ラットでEC効果をみた仕事が他になかったので、わたしたちは次に妊娠中のX線照射で出生仔に小頭症を作り出した。妊娠17日に(ラットは妊娠21囗で生まれる) 200レントゲンのX線を全身照射すると、大脳重量が正常の約60%という重度の小頭症のラットが生まれてくる。大脳皮質は薄くなっていることと、胎児性水俣病の病像に似た細胞構築の著しい乱れがみられる。この程度の重度のものになると、ECによるハビリテーションがさすがにむつかしく、正常対照群(SC)より著しい学習能力(Hebb-W illiams迷路テストによる)の低下がみられるのみで(小頭症でエラーが増える)、 EC効果はほとんど認められなかった(つまり、X線の効果は有意、環境の効果はなし)。わずかに、第1試行のスコアについてエラーの有意減少がみられたのみであった。

 次に小頭症の程度を軽くするために、同じく妊娠17日目に100レントゲンを照射した。出生仔の大脳重量は正常群の約80%だった。ところが、この小頭症群は(前記のMAMの場合と同様に)、正常群と学習能力に差がなく(エラーを指標にしたとき、X線照射の効果がなく)、しかも正常群と同じようにEC効果が生じた(環境の効果は有意)。これでは、どうもX線小頭症ラットに「環境療法」が有効とは言えないので、次に両者の中間の照射量を選んだ。

 妊娠17日目に150レントゲンを全身照射すると、正常の約75%の大脳重量をもつ小頭症仔が生まれてくる。これをEC、 SC、 ICで30日間育てたあとで同じようにテストしてみた結果がある。分散分析により、このときにはX線の効果もあり(学習スコアがわるくなる)、環境の効果もあることがわかり、所期の目的を果たすことができた。小頭症が中等度のときには、標準環境(SC)群の正常ラットの成績にまで、ECによって迷路学習能力を改善できた。