大脳皮質:形態学的EC効果

 

 大脳皮質の厚さ、湿重量から始まり、血管や膠細胞の数、ニューロンの細胞体の大きさ、ニューロンのアンテナ(入力)である樹状突起の枝分かれ、棘の数、シナプスの数、接触面積の広さなどの形態学的指標、神経伝達物質であるアセチルコリンにかかわる酵素活性、生体アミン、核酸などの生化学的指標、誘発電位を主とする神経生理学的指標、学習、オープン・フィールドでの自由探索、睡眠・覚醒サイクルなどの行動的指標などがしらべられている。

 体重はICで増え、ECで減るのがふつうである。摂食量が関係するらしい。脳のなかでも大脳新皮質、とりわけ視覚中枢のある後頭皮質がECで厚く・重くなり(湿重量、乾燥重量ともに)、 ICで薄く・軽くなる。すなわち、標準的なものとくらべてECでは皮質の発達が促進され、ICでは逆に抑えられると言うことができる

 皮質下部では環境による差はみられない。海馬がEcで厚くなるという説もあるが、否定する成績(増えてはいるか、有意ではない)もある。脳のECによる発達促進が後頭部でいちじるしいことから、この部位からサンプルをとった研究が圧倒的に多い。一般には、その他の皮質部位でも、本質的に同じような変化がおこっているものと考えられている。

 前述のごとく、Ecの体重はIcより低いので、Ec群の脳重量の増加を体重の増加によって説明することはできない。大脳の長さ(前後径)はEcで増大するが、幅は80日間の後にも差がみられない。

 脳の細胞にはニューロンと膠細胞があるが、Ec群の皮質(m層とTv層)で膠細胞(星状細胞と乏突起細胞)が増えている。ニューロンの数は増えないが、細胞質も核も、とくに皮質の上層で大きくなる。皮質の毛細血管がEcではIcより太くなっている。

 ニューロンへの情報入力は樹状突起が分担し、ニューロンからの出力は軸索がうけもっている。軸索の環境性変化・発達促進(抑制凵こかんするデータは見当らないが、樹状突起については後頭皮質且層の星状ニューロンで、ECによる枝分かれの増加が生じる。細胞体から出る樹状突起は最初の幹を1次とし、分枝のたびに2次、3次と名づけるが、EC群は一貫して高次(3次以上)の分枝をより多くもち、TCでは逆にそれらが減っている。

 前頭皮質ではこのような効果がみられず、側頭皮質では後頭野におけるほど著明ではないが、有意なEC・IC差がみられる。迷路学習や弁別学習によっても樹状突起の枝分かれの増えることが報告されているが、このときには主として尖端樹状突起(皮質表面に向かってのびるもので、皮質の工層を形成している)に認められる。EC・ICの変化は主に基底部の樹状突起に生じる。 ECで皮質が厚くなるとき、I層は変わらないため、これを除いて測定するのがふつうである。ECによって海馬(古皮質)力丿厚くなるかどうかについては異論があるが、有意性を問わなければ、ECがICより大きい測定値を示す点では一致している。海馬の樹状突起についても、ICよりECで分枝が増えているが、新皮質と違って低次の枝分かれが主に増加している。

 樹状突起の分枝にみられる皮質領野間の差は、皮質の厚さと重量にみられるEC、 IC効果の程度とよく一致している。皮質ニューロンの容積の90%以上が樹状突起によるものであることなどから、皮質が厚く・重くなるのは主として樹状突起、膠細胞、血管の発達促進によるものと考えてよさそうである。

 樹状突起に存在している棘(spine)は、シナプス部位としても注目されているが、眼からの入力を遮断すると(断眼、暗やみで飼育)尖端樹状突起の棘が激減する。基底部の樹状突起の棘は変わらない。この棘がECに反応して増加するが、そのパタンが感覚遮断のさいの反応(減少)部と違っている点は興味がある。

 ECで増える棘は基底部の樹状突起についてであり、尖端樹状突起の棘には有意な変化がみられない。電子顕微鏡による研究から、EC群はICよりシナプス部の接触面が広く・長く、大きいシナプスが多く、小さいシナプスが少ないことが見出されている。