骨髄バンクと移植医療体制の問題

 

 

 骨髄移植にはどうしても無菌室が必要であるが、一九九二年現在で無菌室を備えているのは全国で八一病院である。そのほとんどの病院では、無菌室は一床だけというところが多く、全国で合計一五二床しかない。六床以上ある病院は三病院(東大医科学研究所付属病院・名古屋第一赤十字病院・都立駒込病院)だけである。そして移植を行えるのは、一施設(病院)平均して年間七例から八例であると言うから、全国でどんなに頑張っても年間五〇〇例あまりの骨髄移植しかできないことになる。

 

 現在こうした無菌室で行われる骨髄移植は、当然のこととしてそのほとんどが血縁者間の移植だが、今でも準備が整ったらすぐにでも移植を行える状態にはない。常に無菌室が空く順番を待っている、という状況である。そしてその待機期間は平均二・四ヶ月、二ヶ月以上待たなければ移植は受けられないのである。これに骨髄バンクを通した骨髄移植が行われるとしたら、どうなってしまうのだろうか。やはり浅野氏の指摘するように、大規模な移植センターの設立を望みたい。しかしこの件に関する厚生省の見解は「国の予算削減の影響で、国立病院にベッドを新設するのは難しい。現在、国立病院の統廃合の流れの中で、別に施設整備補助金を受けて対応するしかない」というものであった。どうやら、すぐに大幅な無菌室増床はかないそうもない。

 

 ところで浅野氏が指摘したコーディネーターの問題だが、アメリカの骨髄バンクでは、ドナー側とレシピエント側双方に二〇〇人ずつのコーディネーターがいて対応している。日本では、これまでに百数十名の移植医がコーディネーターを兼務しドナーの同意を得るために活動してきた。

 

 移植医がコーディネーターを兼務することの弊害は、いくつか考えられる。例えば、インフォームドーコンセント(知らされた上での合意)の問題である。骨髄移植がどのようなものであるのかを患者に説明して、合意を得なければならないものである。その一方、骨髄を提供するドナーに対しても、骨髄提供に関してのメリットと同時に、提供を拒否されるかも知れないが、デメリットのほうも包み隠さず説明した上で、提供の同意を得ることになる。それは、決して提供をお願いする依頼であってはならないのである。ところが、このコーディネーターを移植医が兼ねているとしたら、どうであろうか。頭の中ではそういったことが分かっていても、心のどこかに、移植医としてなんとか骨髄移植を実現したい、あの患者を救うにはこのドナーから骨髄を提供してもらう以外に手だてはないのだからと、知らず知らずのうちにドナー候補者に対して説得口調になったりはしないだろうか。そんな心配もあるのだ。

 

 移植医の兼務ではないコーディネーターの必要性は、以前より指摘されてきた。骨髄移植推進財団の業務としても、コーディネーターの養成と研修が盛り込まれている。そして一九九三年三月、二日間にわたってコーディネーター・研修会が東京で開催された。看護婦や保健婦といった、これまでに医療界にあって骨髄バンクに理解のある対象者や、骨髄バンク運動を進めてきたボランティア五二名が参加した。五月頃からこうしたコーディネーターが実務を担当するようになっ てきているが、まだまだ少ない。第二回の研修会は秋に名古屋で開催されると聞いている。

 

 ところで、以上のようなさまざまな現状を考慮していくと、日本の骨髄バンクと骨髄移植をめぐる将来の状況は、今のところ決して薔薇色ではないということがいえるのではないだろうか。

 

 骨髄バックのドナー登録者数は着実に増えてきている一方で、非血縁者からの骨髄移植を希望する患者の登録も進み、アジア系では唯一の日本のバンクに、海外からの登録も殺到している。

 

 HLAデータの検索を重ねていくと、適合ドナーがたくさんいることが分かった。そうしたドナー候補が二次検査・MLC検査と進んで、移植が行われるようになった。移植医は忙しい。移植患者を抱えては、兼務するコーディネート業務にまで手がまわらない。その一方で、コーディネーションもすませ、すべての準備が整った患者も大勢いる。でも、移植を行おうにも無菌室が空いていない。予約を入れても、自分の順番は「一年後になるだろう」といわれた。仕方なくただ待っているうちに、徐々に病状は悪化してきた。これではとても移植を行える状態ではないし、たとえ移植を行っても、うまくいきそうにない。ようやくドナーを見つけることができたというのに、ついに死亡する患者が続出する事態となってしまった……。これは決して単なる想像の世界ではない。下手をすると、間もなく現実のものとなろうとしているのである。