公的骨髄バンクの課題

 

 バンクのかかえるこれからの課題について、次にお話したいと思います。

 

 まずドナーの方、これは血縁者ではありません。ドナーは見ず知らずの方を助けようと身を捧げてくださる善意のボランティアです。このようなドナーの方への負担は、決して小さなものではありません。まず、骨髄提供のために仕事を休まなければなりません。また、採取には麻酔を使いますから、事故がまったくないとは言い切れません。そのようなドナーの方々に対して、精神的なサポートも含めた補償制度を充実させ確立させなくてはなりません。

 

 医者も、医学的立場から努力していかなければならないこともたくさんあります。究極には造血幹細胞の増幅と保存法を確立し「骨細胞バンク」にすることがどうしても必要でしょう。それまでは、できるだけ麻酔時間を短縮して、あるいは麻酔をしなくても移植に必要な造血幹細胞を確保する方法も考案していかなければなりません。

 

 二番目の課題は、移植成績の向上に向けての努力です。骨髄バンクができても、ドナー決定までの期間が長くなれば患者の状態は悪くなり、移植成績は下がります。調整作業がスムーズに早く行えるような体制がどうしても必要となります。GVHDなどの予防と治療法の確立も重要なテーマです。このGVHDの機構はまだよく分かっていません。基礎医学臨床医学にもっと関心を持っていけば大きな進歩があるでしょう。それを支える研究の援助を国はもっとやってほしいというのが、私ども臨床家の希望です。

 

 三番目の課題は、コーディネーターの育成という問題です。現行システムのいちばん大きな問題は、コーディネーターが今のところ移植医であるということかも知れません。移植医がコーディネーターをやるのでは、公平性が保たれるかどうか心配です。コーディネーターは、将来はどうしても移植医以外の人から養成していかなければならないでしょう。このために、コーディネーター研修コースと認定制度を早く確立しなくてはならないのです。

 

 さて、最後の課題は「移植センター」の設立です。いま移植を待っておられる患者数は二〇〇〇人以上になることは先はども申し上げました。骨髄移植施設は年々増えてはいますが、年間五〇〇例近くしかできないのが現状なのですからたいへんです。移植の重要性を認識していただき、啓蒙を進めて医療側も努力すれば、ある程度移植数は増やすことはできるでしょう。それでも今のままでは、どうしても、とても年間二〇〇〇という数は実施できないのです。このままでは、公的骨髄バックの基本理念である公平性が、失われていくのは目に見えています。

 

 しかもバックは、東洋で初めての本格的なものです。アジア諸国が、わが国の骨髄バンクに寄せる期待はたいへん大きなものがあります。これに応える義務が私たち日本人にはあります。各地区ごとの十分に大きな移植センターの設立はますます必要となるでしょう。

 

 以上の多くの課題を解決していくことは、たいへんなことでしょう。公的骨髄バンクが発足し

たとはいえ、私たちの仕事は、むしろこれから始まるといっても過言ではありません。これから

 

 

 

 

   * 骨髄バンクのシステムでは、レシピエントとドナーの双方共に、相手がだれであるのかの情報はいっさい知らされないことになっている。それは、両者に相手がだれであるかが分かることにより、不要な心遣いをさせないためである。例えば、かならずしも移植の結果が良くなかった場合、ドナーに心理的な負担を与えない配慮でもあり、骨髄をもらったということで、レシピエントがドナーに対して心理的重荷を背負わなくてすむようにという考えからである。これは骨髄提供があくまでもボランティアの善意から行われるものだからである。     またきわめて馬鹿馬鹿しい想像をすると、相手がだれかを知っているとすると、こんな例も考えられなくはない。提供時には本当に善意で自らの骨髄を提供したドナーがいたとする。もちろん何の報酬も期待したわけではない。レシピエントも移植後は順調に経過してすでに社会復帰を果たし、バリバリ働いている。ところが、最近になってドナーとなった方の仕事が思わしくなくなって、資金繰りに困るようになった。そこで、あのレシピエントに借金の申し入れをしたいと思い立って訪ねた……。もちろん実際にはこんなことはないだろうと思うが、考えられないことではない。