消化性潰瘍:ピロリ菌を根治する3剤併用療法

 

 

ピロリ菌を退治すると再発率が激減する抗菌薬などの「三剤併用療法」が確立

 

 以前、十二指腸潰瘍と診断されたことがあり、いまも、ときどき腹痛がします。胃潰瘍だった知人は三年前にピロリ菌の除菌療法を受け、その後は再発していないとのこと。やはり除菌したほうがよいでしょうか。                      (東京都・会社員・43歳)

 

●一変した治療法

 

 消防士のAさん(59)は七年前から、ある病院で胃潰瘍の治療を受けていた。処方されていた薬が切れても、多忙で病院に行けず、二ヵ月ほど服薬をやめていた。すると、ある夜、勤務中に突然、吐き気が起こり、牛乳瓶二本分ぐらいの血を吐き、すぐに救急車で東京都立駒込病院に運ばれた。 消化器内科の榊信服部長が内視鏡で見ると、胃の中は血だらけで、胃角小彎と呼ばれる胃の湾曲した部分に大きな潰瘍があり、その底に出血している動脈が見えた。

 

 エタノール局注法(内視鏡を使った止血術の一つ。後述)で出血を止め、同時にヘリコバクター・ピロリ(以下、ピロリ菌)の有無を調べたところ、感染が確認された。Aさんは消化性潰瘍と診断され、一週間入院。潰瘍が落ち着いてから外来で除菌療法を受けることにした。      

 

 「消化性潰瘍を胃・十二指腸にできる潰瘍の総称と思っている人が多いようですが、正しくは慢  性潰瘍を意味しています。胃・十二指腸潰蕩には、潰瘍が深くて再発するタイプと、潰瘍が浅く、再発もしないタイプがあり、前者がこれに当たります。十二指腸潰瘍では九割以上が、胃潰瘍は七、八割が消化性潰瘍です。そして消化性潰瘍の九割以上にピロリ菌が関与しています」

 

 と榊部長は言う。

 

 ピロリ菌は一九八三年に初めてヒトの胃内から分離され、潰瘍の形成に深く関与していることがわかり、消化性潰瘍の治療法は一変した。以前は、出血して腫れの強い活動期は安静にし、重症なら手術するしかなかったが、薬で治るようになった。

 

 ピロリ菌は胃粘膜の表面に密着してすみ、粘膜を侵す物質を出したり、免疫機構を異常にしたりして胃炎を発生させる。これが慢性化すると胃粘膜は萎縮し、潰蕩ができる。ピロリ菌がいる限り、胃は潰瘍ができやすい状態なのだ。

 

 それなら、ピロリ菌を退治すれば再発を予防できるのではないか、ということで除菌療法が生まれた。現在、定着しているのは、強力な酸分泌抑制薬でピロリ菌に対する直接的な抗菌作用もあるプロトンポンプ阻害薬(PPI)のランソプラゾールと抗菌薬のクラリスロマイシン、アモキシシリンという二種類を一週間内服する三剤併用療法だ。

 

 これには二〇〇〇年十一月から健康保険が適用された。Aさんにもこの三剤が用いられ、一週間後の内視鏡検査で、炎症がかなり軽くなっていることが確認された。が、胃潰瘍はまだ活動期だったため、続いて酸分泌抑制薬のH。ブロッカー(商品名ザンタック)を二ヵ月投与。その後の検査では、ピロリ菌が消えて胃炎も潰瘍もきれいになくなっていた。これで胃粘膜は健康を回復し、七年たった現在まで再発は一度もない。

 

 なお、治療開始時に潰瘍が瘢痕化するなど、ほとんど治っている患者なら、最初の一週間の治療で終わる。

 

 「この治療で約九割の人が除菌できます。失敗例の半数以上は、ピロリ菌がクラリスロマイシンに耐性を持っていることが原因なので、これをメトロニダゾールという抗原虫薬に変えて同様に治療します。これで耐性菌を持つ人の九割弱が除菌に成功しますが、それにも失敗すると除菌は難しくなります」

 

 除菌療法は、潰瘍ができにくい状態をつくりだすのが目的だ。榊部長が治療後二年以上、経過を観察できた患者について調べてみると、除菌に成功した人の再発率は、十二指腸潰瘍で約五%、 胃潰瘍では約一〇%だった。

 

 一方、除菌せずにH2ブロッカーだけを飲み続ける従来の治療では、十二指腸潰瘍が六〇%強、胃潰瘍が五〇%弱、再発していた。