炎症性腸疾患:難治患者に負担の軽い根治手術

 

 

大腸全摘後、マラソンに励む人も

 

●立ち直った女性教師

 

 潰瘍性大腸炎クローン病では、内科的な治療だけでは対処できないケースもあり、手術が選択されることもある。最近は、患者にも負担の少ない方法が開発されている。

 

 東京都内の中学教師A子さん(31)は二十代後半に潰瘍性大腸炎と診断された。ステロイド薬などで治療を続けてきたが、副作用がひどく、ノイローゼのようになった。教壇にも立てず、高校教師の夫とも不和になって、ついに自殺未遂を起こした。

 

 そんなとき、横浜市立市民病院外科の福島恒男部長らが独自の大腸全摘手術をしているのを知って受診した。福島部長は言う。

 

 「潰瘍性大腸炎の八割以上は薬物療法でコントロールできます。ただ、腸の炎症が悪化した場合はステロイド薬を使わざるを得ません。その副作用に悩んで錯乱状態になったり、神経症になるような例がときどき見られます。それでもなお、精神科の薬を使ったりして治療を長引かせるよりは手術を検討したほうがよいのではないか、というのが私たち外科医の考えです」

 

 手術が適応となるのは、強力なステロイド薬を静脈注入(点滴)しても改善しない重症例や、年に何度も入院したり、薬の副作用がひどかったり、だんだん効かなくなったりした難治例だ。

 

 「潰瘍性大腸炎は大腸が炎症を起こす病気なので、大腸がなくなれば下痢や腹痛、貧血などの症状からも解放され、根治します。一般的な大腸全摘術は、三回に分けて手術したり、肛門機能の低下や縫合不全などの合併症が起こるケースもある。

 

 私たちが考案した改良型では、そうした危険性が少なく、手術も一回ですむことが多いんです」

 

 現在、普及しているのは「J型回腸嚢肛門吻合術」といい、兵庫医科大学第二外科の宇都宮譲二教授が考案した。大腸をすべて切除し、小腸の末端(回腸)に、便をためるためのパウチと呼ばれるJ型の袋をつくり、肛門とつなげる。この際、大腸は肛門から少し入ったところにある歯状線から切除する。

 

 福島部長の手法が異なるのは、肛門管をすべて残して大腸を切除する点だ。肛門管というのは肛門と直腸の間の三寸ほどの部分で、歯状線を境に上部は大腸粘膜と同じ粘膜上皮、下部は皮膚と同じ扁平上皮でできている。

 

●手術は一回ですむ

 

 「この場合、大腸粘膜が二言ほど残るので、根治手術ではないと批判する人もいます。が、これまで二百七十人ほどに実施してきた結果では、残った肛門管の大腸粘膜に炎症が生じて治療が必要になった例はほとんどありません。それよりも手術が一回ですむなど、患者さんの負担が著しく減ったメリットのほうがはるかに大きいと思います」

 

 と福島部長。

 

 手術直後はしばらく下痢が続くが、半年~一年で改善し、排便回数は一日平均五回ぐらいに落ち着く。それまで我慢できなかった便意も、我慢できるようになる。

 

 A子さんもこの手術を受けて精神的にも安定。職場復帰を果たし、二年ほど別居していた夫との仲もよくなり、その後、出産もした。

 

 福島部長は、

 

 「長期間入院していた患者さんが手術後、実業団でマラソン選手をしているとか、司法試験に合格したとか、いろいろチャレンジしている話を聞きます。医者として、うれしいですよ」

 

 と話している。