クローン病:食事療法でたいていが軽快する

 

腸に刺激を与えないことが肝心

 

●日本でも増加傾向

 

 二十二歳の男性Aさんは高校を出て十八歳で自動車修理工になった。従業員の少ない工場で、勤務時間が不規則なうえ残業も多かった。食生活が乱れ、外食やコンビニエンスストアの弁当などを食べていた。

 

 就職してまもなく、下痢がひどくなった。しだいに回数が増え、仕事中にトイレに駆け込むこともしょっちゅう。市販の下痢止めを飲んでも効かず、近所の内科医院で出してもらった薬でもだめ。その後、何軒かの病院で診てもらったが、とくに異常は見つからず、はっきりとした診断が下されなかった。

 

 あまり頻繁に腹痛と下痢を訴えるため、工場の上司や同僚だちから「サボリだろう」と疑われたこともあった。

 

 四年ほどしてから、知人の紹介で東邦大学医学部付属大橋病院(東京都目黒区)消化器診断部の酒井義浩教授の診察を受けた。問診や内視鏡検査などの結果、クローン病と診断された。

 

 「この病気の存在と名前が広く知られるようになったのはここ十年ほどのこと。内視鏡の設備がない個人病院などでは診断がつかないことも少なくありません。十代や二十代の若い年齢層に多く、腸などの消化管に潰瘍や繊維化を起こす慢性疾患で、下痢、腹痛、発熱が続き、栄養の吸収障害や蛋白漏出(血液中の蛋白質が消化管に漏れ出すこと)で体重が減ってしまうことも少なくありません」

 

 欧米では患者数が非常に多い。酒井教授かイギリスの病院にいたときには、夜、腹痛を訴えて救急車で運ばれてくる患者はたいていクローン病だったという。日本でも近年、増加傾向にあり、人口十万当たり二、三人の割合で患者がいる。食生活が欧米化したことが影響していると見られているが、詳しい原因はわかっていない。

 

 治療としては薬物療法や手術療法もあるが、根治は難しい。食事療法が何より肝心なのだという。

 

 「抗炎症剤などは再発までの期間を延ばすために使います。ステロイド薬を用いることもありますが、効果は一時的で、長期間服用すると副作用もあり、一生つきあうクローン病には不向きです。また、手術をしても食事療法をきちんと続けていないと再発することが多い。薬物療法や手術をしなくとも、食事制限を守って腸に刺激を与えないようにすれば、消化管の傷が閉じて症状は軽くなり、安定します」

 

 Aさんは二週間ほど入院し、退院後は無事に仕事に復帰。工場のオーナーにもクローン病のことを説明し、早出や残業をなるべくしないように配慮してもらった。

 

 二ヵ月ほどはチューブを鼻から挿入して夕食をとり、朝と昼には離乳食のような半消化態の栄養食品を食べた。病状が安定してからは昼食だけは同僚だちと外食もできるようになった。

 

 そこで食事療法のポイントと生活上の注意点を酒井教授にまとめてもらった。▽入院時=通常、クローン病と診断されると十日~二週間、入院する。症状が重ければ点滴による栄養補給。中等度ならチューブで栄養をとる。自分でチューブを鼻から挿入できるように訓練を受けたり、腸への負担を極力抑えた食事の取り方も教わる。

 

 重症の人も症状が改善してきたら、なるべく経腸や経口で栄養をとるようにする。いつまでも点滴で栄養補給を続けると腸の機能が退化してしまうからだ。

 

▽退院後=専用の液体栄養剤にはバニラやいちごなどの味をつけたものもある。経口で飲んでもよいが、においに抵抗のある人も多い。しばらくはチューブで鼻から入れる経腸栄養方式が中心になる。

 

▽症状が安定してきたらり半消化態ジュースを飲んだり、一日に一食ぐらいは外食などで通常食をとるのもよい。ただし、通常食でも、腸に負担のかかる脂肪や繊維質の多いものは避ける。また、脂肪分を抑える代わりに蛋白質を多めにとり、エネルギーを確保することも大切。極端に硬いとか、熱い、あるいは冷たい食品、香辛料の多いもの、コーヒー、アルコール、たばこなども胃や腸に局所的に刺激を与えるので控える。

 

   「患者は食欲の旺盛な若い世代に多く、食事療法はつらいものです。が、医師の指示どおりに制限を守れば、激しい腹痛などの症状を起こすことはなくなります」

と、酒井教授は食事療法に自信を示す。

 

 また、ストレスとはいえないかもしれないが、飲酒や喫煙、不規則な食事、暴飲暴食など「食餌因子」が発症のきっかけとなったと見られる例が三五・七%あった。調査では、患者本人の性格についても質問。「責任感が強いと思う」人が七八・六%と高く、神経質、几帳面、感情を抑えるなどの答えが次いでいる。

 

 「調査対象の症例が少なく、数字的に重みはないのですが、発症時と増悪時にストレスが関与していることは確かです。食事や薬による治療と同時に、ストレス対策の指導も必要だと痛感しました」