潰瘍性大腸炎の治療:見事に効いた点滴薬

 

 ここで島田さんを診たのが現在の主治医である斎藤幸夫外科医長だ。

 

 「島田さんは、穿孔の危険はほとんどありませんでした。穿孔直前には腹部全体が痛み、腸が膨れたり、腹水がたまったりします。また、熱も高く、脈は速く、場合によっては意識障害も起こります。島田さんは平熱で、顔つきも元気そうでしたから、一見して内科的治療でいけると思いました。薬の種類や投与法 を変えてやってみて、それでだめなら手術も検討しましょうと 両親に話しました」

 

 そこで、リンデロン(座薬以外に錠剤、注射・点滴薬がある)を点滴で投与した。ほかに腹痛には鎮痛薬、不眠には睡眠薬を処方した。転院三日目にはCRPが基準上限値に近いところまで下がり、十日でほぼゼロになった。排便は一日一、二回まで減った。

 

 「実は、この薬の点滴投与は前の病院でも転院の前日に始めていたんです。ちょうど、その効果が表れ始めたときに私か島田さんの治療を引き継いだようで、どんどん快方に向かいました」

 

 潰瘍性大腸炎の治療では、その患者に合った薬を選ぶことと同時に、投与量の決め方も重要だ。 ステロイド薬では、第一選択として使われる前出のプレドニゾロンの点滴でも、一回量を体重一キロ当たり一ミリクラム、つまり五〇ブの人なら五〇レクラムぐらいにする。用量が少なすぎると効かないことも多いそうだ。

 

 「島田さんの症状が改善するのに伴い、薬の減量を始めたところ、五日目ごろから表情が暗く、口数も減り、声にも抑揚がなくなってきました。『必ずよくなるから』と繰り返し励ましたのですが、イライラが高じていたんですね」

 

 このため斎藤医長は精神科に協力を求めた。精神科医の診断は「薬剤性パーキンソン様症状」だった。睡眠薬の副作用である。すぐに睡眠薬を中止したら、3日ほどで改善。焦燥感もおさまった。

 

 食事も流動食がとれるようになった。薬を減量するにつれて粥の量が増え、九八年二月上旬には普通のご飯に。薬の投与法も点滴から経口薬に変わった。内視鏡検査でもほとんど炎症が見られず、やっと退院できた。

 

 筋力も落ち、帰宅した日は階段も上れなかった。が、だんだん体力が回復し、復学に向けて自宅でリハビリに励んだ。まもなくステロイド薬からも離脱できる見通しだ。島田さんは、

 

 「いい経験をしました。悔やまれるのは、再発したとき、すぐに治療しなかったこと。甘く見ちゃいけないとわかっていたのに、やっぱり甘かった。次に症状が出たら、同じ轍は踏まないつもりです」

 

 と話している。