排尿障害対策:電気刺激で尿道括約筋が機能回復

 

直腸がん術後患者も早期に自力排尿

 

 がんの手術で直腸を取り除くと、自力で尿を出すのが難しくなることがある。がん転移の可能性を考えて広範囲に切除するため、排尿に関係する神経を傷めるからだ。神経を温存する手術法もあるが、どんな場合でもできるわけではない。また、神経を残していても排尿障害が起こることもある。

 

 東邦大学医学部付属大森病院(東京都大田区)第一外科の後藤医局長は、こうした排尿障害の治療で、ツボに鍼を刺して電気を通す電気刺激療法を試み、成果を上げている。

 

 肛門に近い部分に腫瘍のできた直腸がんや、肛門管がんの手術後に排尿障害となった男女が対象だ。

 

 千葉県内で会社を経営している男性Aさん(49)は、一九九六年に同病院で直腸がんの手術を受けた。下腹神経や骨盤神経叢を切り取ったため、排尿障害を起こし、後藤医局長の勧めで電気剌激療法を受けた。

 

 腰にある第二~第四仙骨孔(次膠、中膠、下膠)や膝の外側にある足三里などのツボ十九ヵ所が刺激の対象になる。刺激装置から電極つきの二本のコードが出ていて、患者は片方の電極を手で握り、医師がもう一つの電極につないだ鍼をツボに打つ。百五十肩アンペアの弱い直流電流が七秒間流れる。痛みは軽い。

 

 Aさんは、この治療を手術の二週間後から始め、計八回受けた。

 

 初めは尿道に人工の管を常設し、尿を体外の袋にためる「バルーン留置法」でやっていたのが、やがて数時間ごとに自分で尿管に人工の管を通して排尿する「間欠的自己導尿法」が可能に。そして、手術から約二ヵ月後の退院時には自力で普通に排尿できるまでになった。

 

 「がんの手術が無事終わったときより、おしっこを自分で出せたときのほうが、ずっとうれしかった」

 

 とAさんは感激。その後、がんの再発も排尿のトラブルもなく、元気に働いている。

 

 後藤医局長はこれまでに三十三人にこの電気刺激療法を試し、二十三人が自力で排尿できるようになった。 「電気刺激をすると、なぜ自力排尿に効果があるのか、まだ十分にはわかっていません。排尿は、膀胱の収縮と連動して外尿道括約筋が開くことで起こるわけです。が、手術で神経を損傷している場合、膀胱が収縮することはまず考えられません。おそらく、電気刺激によって外尿道括約筋の機能が回復するのではないでしょうか。外尿道括約筋を支配している陰部神経は第二~第四仙骨孔のツボと関係が深いのです」

 

 Aさんは電気刺激療法を八回受けたが、その後の研究で、だいたい五回以内で効果が出ることがわかった。手術後二~四週の間に電気刺激を始めたほうがよいそうだ。

 

 ところで、Aさんから翌年の正月に、「もう一つの機能が問題です」と書かれた年賀状が後藤医局長に届いた。

 

 「直腸がんの手術のために勃起も射精もできない人がたくさんいます。残念ながら、いまのところ電気刺激で男性の性機能を回復させることはできません。今後の研究課題です」

 

 なお、この治療は毎週木曜日午後に東邦大学医学部付属大森病院第一外科の専門外来で受けられる。