胃癌に対しては低用量化学療法が有効

 

 一般に、抗がん剤治療は強い副作用を伴うので、「がんをやっつける前に体がだめになってしまう」「延命してもクオリティー・オブ・ライフ(QOL=生活の質)が保てない」などの批判もある。佐治教授は、激しい嘔吐などを起こすことで知られるシスプラチンと5-FUの二剤を組み合わせながら、投与量を極端に少なくしている。

 

 抗がん剤は術後三週目から投与を始める。一日にシスプラチン五ミリグラムを三十分から一時間点滴。5-FUは三〇〇ミリグラムを二十四時間持続点滴する。これを五日間続け、二日間休む。このサイクルを四週間以上繰り返していく。

 

 一般的に行われている化学療法は、薬量を多く投与して一気に血中濃度を上げる。佐治教授も以前はシスプラチンを一日三〇ミリグラム、51FU一五〇○ミリクラムを二日間投与し、五日問休むというサイクルを採用していた。が、せっかくがんが小さくなっても、口内炎や嘔吐、骨髄抑制などの副作用が強く、中止せざるを得ないことが多かった。

 

 「胃や腸の粘膜、骨髄細胞は細胞分裂が盛んなところ。とくに分裂期にある細胞が抗がん剤のダメージを受けやすいんです。低用量だと嘔吐や腎機能障害などの副作用が出る例はほとんどありません」

 

 シスプラチンを極端に減らしてしまうと、がんをやっつける効果がなくなるのでは、という疑問も残る。だが、佐治教授は言う。

 

 「シスプラチン単独の効果を期待するのではなく、5-FUの効果を増強させる薬として併用するのです。ですから、この量でも通常量と同しくらいの抗腫瘍効果が得られます。むしろ患者の免疫力が保たれる効果が大きいといえます」

 

 進行がんでは低用量の化学療法をできるだけ長く続けていくのが原則だ。退院後は週一回だけ通院してシスプラチンを10ミリグラム点滴し、5-FUの飲み薬を一日四〇〇ミリグラムずつ一週間分、処方してもらう。シスプラチンは内服薬がないので週一回の通院はやむを得ないが、患者は仕事や旅行もできる。

 

 「進行がんでは体内のがん細胞をゼロにすることは不可能です。慢性疾患ととらえて、増やさないように仲良く共存していけばいいのです」

 

 会社員B子さん(48)は、悪性度が高いスキルス胃がん(胃壁の中にがん細胞が潜り込んで浸潤するタイプ)で、すでに大動脈周囲のリンパ節に広がっていた。すべてを切除しきれず、余命は半年以内と思われた。

 

 術後すぐに低用量化学療法を始め、退院後も週一回のシスプラチン点滴と5-FUの服用を続けた。副作用が起こらなかったばかりか、病気による不快な症状に悩まされることもなく、友達との旅行も何回か楽しんだ。二年後に亡くなったが、予想された余命を四倍に延ばしたうえ、亡くなる直前まで高いQOLを保つことができたという。