がん細胞を殺すリンパ球の大量増殖

 

●特異的免疫療法

 

 がん細胞に現れる特異な分子を免疫のターデッドにしようというのが「がん抗原特異的免疫療法」だ。いま、がんの最も新しい治療法として世界各国で研究が進められている。

 

 一九八七年から米国国立癌研究所で、がんの免疫研究に取り組んできた慶応義塾大学医学部先端医科学研究所の河上教授は言う。

 

 「最初のうちは体全体の免疫力を上げる『非特異的免疫賦活剤』を使った免疫療法が多かったのですが、あまり強い効果は認められませんでした。もっと問題なのは、その治療過程で何か起こっているかというメカニズムがわがらなかったことです」

 

 ところが、ここ十年で、がん細胞に対して免疫反応がどう起こるのかが分子レベルで解析され、

 

 「がん抗原」というものが次々とわかってきた。 がん抗原とは、個々のがんに特徴的な細胞表面の構造で、「がん細胞の目印」のようなものだ。リンパ球などの免疫担当細胞は、そのがん抗原を認識することで反応する。河上教授も米国でメラノーマ(悪性黒色腫)のがん抗原を突き止めている。

 

 「がん抗原がわかれば、今度は、それに対して免疫のメカニズムがどう働いているかを調べればいい。研究の結果、Tリンパ球が深く関係していることがわかりました」

 

 免疫担当細胞の代表が白血球で、細菌などを食べる顆粒球(奸中球など)と、免疫を担当するリンパ球の二種類がある。リンパ球はさらにT細胞(Tリンパ球)とB細胞に分けられる。

 

 このT細胞ががん抗原を認識して活性化されると、がん細胞を直接殺傷する「キラーTリンパ球」となる。つまり何らかの方法で、このキラーTリンパ球を大量に増やせば、がん細胞を攻撃することができる。その方法がいま盛んに研究されているわけだ。

 

 河上教授かいた米国国立癌研究所では、ローゼンバーグ博士が中心になって九七年に、進行したメラノーマの患者三十一人に「がん抗原ペプチドーワクチン」の投与を試みた。

 

 ペプチドはアミノ酸から成るがん抗原の構成成分だ。河上教授らは、メラノーマのがん細胞表面に提示されているペプチドの一部を改良したものと、免疫反応をより高めるT細胞増殖因子(インターロイキン2という生理活性物質)を併用投与した。その結果、三十一人中十三人(四二%)に効果が認められた。

 

 「米国では、この方法の多施設臨床試験が予定されています。ほかにも、がん抗原を標的にしたDNAワクチン、組み換えウイルスなどを使った遺伝子治療臨床試験が進んでいます。が、有効率を高めるためには、まださまざまな工夫が必要です」

 

 と河上教授は話している。