血液がン、腎臓がん、メラノーマ、前立腺がん:他人の骨髄・末梢血細胞移植の意外な「完治力」

 

 夫が腎臓がんにかかり、現在、抗がん剤の治療を受けています。すでに末期に近いといわれていますが、夫自身は「一%の可能性があるなら、新しい治療を受けたい」と言っております。いま、どんな新療法が有望なのでしょうか。               (東京都・主婦・54歳)

 

●ミニ移植

 

 現在、がんの標準的治療といわれているのは手術、放射線療法、化学療法(抗がん剤)の三つだ。が、これらをどう組み合わせてみても、進行がんなどでは限界がある。そこで、第四の治療法として、二十一世紀には「切り札」の一つになりそうなのが免疫療法だ。

 

 国立がんセンター中央病院薬物療法部の高上洋一医長はこう話す。

 

 「免疫療法というと、体の免疫力を強めて、がんを殺すというイメージを持っている人も多いと思います。しかし、人間の持つ免疫機能をくぐり抜けて成長してきたがん細胞は、体の免疫力を強めるだけで殺せるほど、なまやさしいものではありません。現在、私どもが進めている免疫療法は、これまでのものとは発想も手法も全く違います」

 

 その一つが「ミニ移植」だ。白血病などの血液がんでは、大量の抗がん剤投与や放射線治療で体内のがん細胞をなくしたあと、正常な血液細胞のもとになる細胞(造血幹細胞)をドナー(提供者)から採取して患者に点滴輸注する(四回-も参照)。実は、この骨髄移植自体が優れた免疫療法であることがわかってきた。

 

 「他人の骨髄や末梢血細胞を移植して免疫反応が起こると、さまざまな副作用が生じますが、大量の抗がん剤治療でも生き残っていた悪い細胞も殺されます。つまり、他人の骨髄と自分の体の免疫機能が反発し合って生じる『移植による副作用』が、がん細胞を最終的にやっつけるのです」

 

 これを専門用語で「移植片対白血病効果」、あるいは「移植片対腫瘍効果」と呼ぶ。移植には、自分の造血幹細胞を移植する「自家移植」と、ドナーの造血幹細胞を移植する「同種移植」があるが、この効果は後者だけにある。

 

 なぜかというとドナーの造血幹細胞を移植すると、リンパ球も一緒に患者の体の中に入る。健康な人なら、他人の血が体内に入ってきても、それに含まれるリンパ球を異物とみなして免疫の力で殺してしまう。

 

 ところが、抗がん剤放射線で痛めつけられている患者の免疫力は低下しているので、抵抗できない。逆に、ドナーのリンパ球のほうが、生意気にも患者の体全体を異物とみなして攻撃する。患者の体内に発生したがん細胞も異物とされて殺されるのだ。

 

 ミニ移植はこの働きを利用したものだ。拒絶反応の逆利用といってもいい。これまでは、大量の抗がん剤を使って体内のがん細胞を一つ残らず殺してしまわないと、骨髄移植の効果は出ないとされてきた。が、同種移植の免疫反応を利用すれば、それほど大量の抗がん剤を使わなくていいと考えられるようになった。

 

 「抗がん剤を大量に使えば、白血球や血小板の減少、消化器粘膜障害、肝臓・腎臓障害など、さまざまな副作用が出てきます。ミニ移植の場合は、抗がん剤の使用量が減り、副作用も少なくなるので、患者さんの精神的、肉体的負担は大幅に減ります。つまり、免疫療法の効果が、めいっぱい期待できます」

 

 高上医長らは、白血病の患者を中心に、すでに二十七人にミニ移植を試みている。免疫療法の効果が表れるまでには一、二年かかるので、まだ効果の判定は難しいが、現段階ではメリットが認められる患者も多いという。

 

 現在、血液のがんでミニ移植の対象にしているのは、標準的治療では限界のある五十歳以上の患者。HLA(白血球の型)が合う人でないと移植できないので、そこでも治療対象が限られる。

 

 「さらに安全性が向上すれば、もっと早期のがんや若い世代にも応用できるでしょう」

 

 と高上医長は言う。

 

 ちなみに、骨髄移植は最近、「造血幹細胞移植」と呼ばれるようになった。骨髄だけでなく、末梢血や臍帯血(へその緒の血)、胎盤の中などにも移植に使える細胞があることがわかってきたからだ。国立がんセンターでも末梢血幹細胞移植が主流になっている。

 

 このミニ移植は、血液のがんだけでなく、腎臓がんなどの固形がんに対しても応用が広がっている。

 

 米国などでは著明効果の報告もある。腎臓がんがどんどん大きくなり、肺に四十以上の転移巣があって、抗がん剤インターフェロンも効果がなかった患者にミニ移植を試みた。すると約半年でがん細胞が消えてきて、一年半後には全くなくなったという。

 

 「ただ、ミニ移植にも問題はあります。免疫反応が過剰に出てしまうと、今度は肝臓障害やアトピー性皮膚炎のような皮膚症状などの副作用が出て、ときには重症化します。良い効果と副作用のバランスをとるのが難しいのです」