GM-CSF:顆粒球マクロファージコロニー刺激因子

 

 

免疫は、四段階にわたる玉突き現象、あるいは細胞同士の連携プレーでもってガンを撲滅しにかかるのである。

 

 そしてこの免疫の仕組みを利用して作るのがガンワクチンである。具体的にいうと、ガン細胞にサイトカインの遺伝子を入れることによって、このメカニズムの第一ステップの抗原提示細胞に認識されやすいように「俺はガンだ」という旗印を掲げさせて、免疫細胞がガンを攻撃しやすいようにするというわけだ。

 

 もっとも、ガン細胞に注入する遺伝子はどんなサイトカインでもいいというわけではない。マリガン教授は、各種のサイトカイソのなかから、GM‐CSF(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)という物質がガンにもっとも効果があることを発見したのだ。

 

GM-CSF

 

 GM-CSFとは、T細胞が分泌するサイトカインの一種で、骨髄を刺激して白血球の増殖と分化を促進する働きをもっている。このGM型のほか、G型、M型などがあり、八〇年代はじめに白血病や免疫不全症などの治療薬として一躍注目され、医薬品メーカーが開発にしのぎを削ってきた物質である。

 

 濱田部長らは、このマリガン教授の研究成果を下敷きに、さらに発展させてもっと効果的なガンワクチンを作ろうと考えた。そこで、ガン細胞に注入するサイトカイン遺伝子で、GM-CSFを凌駕するサイトカインを見つけだそうと、二年かけて、約三〇種類ほどのサイトカインをしらみつぶしに調べあげた。

 

 インターロイキン2(IL2)、インターロイキン4(IL4)、TNF(腫瘍壊死因子)、インターフェロンなどのサイトカインをクローユングし、分子構造を調べることからはじめたが、やはりいちばん苦労したのは、作ったガンワクチンが動物で効果があるかどうかを確かめる実験であったという。

 

 結論からいうと、実はGM‐CSF以上に効果のあるサイトカインはなかったのである。

 

 そこで彼は研究の方向を変えて、このサイトカインに別のサイトカインをプラスし、サイトカインのコソビネーシEソでもっとガンに効果のあるものを探そうと調べた。

 

 二つのサイトカインの遺伝子を導入して発現させるのは技術的になかなか困難なことから、同時にベクター開発も行った。

 

 マウスに人為的に脳腫瘍や悪性黒色腫(メラノーマ)というガンを作り、それに件の。ガンワクチン”を投与して、治療の成果を調べた。もちろん、ガンワクチンとして使うガン細胞には放射線を当てて、危険な増殖性をなくしておく。

 

 その結果、GM‐CSFとインターロイキン4の遺伝子を入れる組み合わせが最も効果的であることがわかった。たとえば脳腫瘍の場合、GMICSF単独だと最初のうちは効いていても時間が経つにつれ次第に効かなくなってくるのに、GM‐CSFとインターロイキン4との組み合わせだと持続的な効果が見られた。

 

 濱田部長に写真を見せてもらったが、脳腫瘍やメラノーマに対して何の治療もしなかった場合は、写真のほぼ半面にガン細胞が広がっている。しかし、GM-CSFとインターロイキン4の二つの遺伝子を入れた″ガンワクチン″を投与したものでは、ガン細胞の塊の合間合間にさまざまな免疫細胞が侵入していて、いまにもガン細胞を攻撃しようとしている姿がはっきりと確認できた。これは入れたサイトカイン遺伝子の効果にほかならない。

 

 「地道な基礎データはそろってきました。あとは臨床試験で確かめていくことになります。実は三年前から計画をしてたんですが、手続き上の問題で大きく遅れ、ようやくここまでこぎ着けたところです。だからまずはGM-CSF遺伝子を単独で入れる試験から行われると思います。GM‐CSFとインターロイキン4との組み合わせはその後になるでしょう」

 

 と濱田部長は語る。

 

 その濱田部長によれば、アメリカでは、これとほぼ同じ遺伝子治療の臨床応用がすでに九四年春から腎臓ガンと悪性黒色腫を対象にはじまっており、その途中経過の伝聞によれば、四人のうち、一人はよく効き、二人は若干効き、残り一人はまったく効かなかったという。なぜワクチンが効くか

 

 濱田部長らはまた、このガンワクチンが効くメカニズムも並行して研究してきた。その結果、これを投与したマウスでは、脾臓が腫れ、とくに樹状細胞とよばれる細胞がその内部で大量に増えていることを見つけだした。樹状細胞とは、骨髄から生まれた免疫細胞の一種で、皮膚上皮や脾臓など、全身に広く分布しており、免疫反応の初期段階で重要な機能を担っている細胞と考えられている。「この樹状細胞が最も強力な抗原提示細胞になり、T細胞を強力に活性化することがわかったんです」

 

 このことから、樹状細胞とメラノーマ細胞を一緒に試験管で培養しさえすれば、樹状細胞だけを投与する。ガンワクチン″ができるという。しかもガンに対する効果もこちらのほうが期待できるとい

 

 実際、アメリカでは、すでにこの樹状細胞を使った治療で動物実験と患者を対象にした臨床試験が行われ、成果が出はじめている。たとえばピッツバーグ大学のロッツェ博士の研究グループでは、肺ガン、卵巣ガンに冒されたマウスに、この樹状細胞とガン抗原を組み合わせたものをガンワクチンとして投与したところ、ガンが消失した。スタンフォード大学のレビ博士のグループは、これをさらに発展させ、実際に悪性リンパ腫というガン患者にこの組み合わせのガンワクチンを試み、四人のうち二人が腫瘍が縮小したと、報告されている。

 

 もちろん、これらの治療は細胞を体内に入れる治療だから、遺伝子治療ではなく、免疫療法の一種である。ガン抗原も、ガン細胞から単離したペプチドを入れているので、「ガン抗原ペプチド療法」というニュリバージョンの免疫療法ということになる。