ATK療法

 

 キラーT療法に似た、新しいガン免疫治療の確立を目指して日夜奮闘している医師がいる。内田京都大学放射線生物研究センター教授である。その治療法は「ATK(自己ガン細胞障害)療法」とよばれている。

 

 内田教授は昭和二〇年、松山市生まれ。京都大学医学部に入学し、昭和四六年に卒業後、同大学大学院で内科を専攻し、免疫学の研究に取り組んだ。父親の死がそのきっかけだったという。医師だった父は半年に二回の検査を受けていた。ところがガンで死んでしまった。その原因を考えているうちに、「ガンの発疱には検査でカバーし切れない何か他の要素が関係しているのではないか、と思い始めたのです。調べていくうちに、人には必ず自分のガン細胞を殺す働きがあるはずだ、という仮説に行き着きました」(内田温士著『ATK-人間を守る生命システムー』より)という。

 

 しかし、それを研究する場所は日本にはなかった。そこで昭和五六年に大学院を卒業後、その場を海外に求めて、ウィーン大学ガン研究所を皮切りに、デューク大学メディカルセンター、パターソン研究所、クリスティ病院、カロリンスカ研究所等、欧米の大学、研究所を転々と渡り歩いていくのである。

 

 彼は、まずナチュラルキラー(NK)細胞によるガン治療の研究からはじめた。その研究姿勢も実にユニークであった。「ガンの原因は数限りなくあり、そのすべてを突き止めることは不可能です。しかも原因を突き止めたからといって、治療に結びつくわけではない。それよりも結果、ゴールから攻めたほうがよほど早いんです」

 

 ただし、ゴールをどこに置くかが重要である。たいていの人は、ガン細胞の撲滅に置くが、彼は「どうしたらガンで死なないか」「ガンがあっても生活できるようにするにはどうしたらいいか」というテーマをゴールとした。ガン細胞を撲滅しても、人体まで死なせてしまっては何にもならないと考えたからだ。そしてこのカギを握るのがNK細胞とT細胞だと考え、研究を深化させていったのである。

 

 その結果、一九八二年になって、ついに自分のガン細胞を殺すものを見つけだした。リンパ球のATK活性とよばれるものであった。

 

 内田教授は、このATK活性を利用してガンを治療しようとさらに研究開発をつづけ、さまざまな苦闘のすえ、新しい免疫療法を確立した。これがATK療法である。

 

ATK療法の方法

 

 どういう治療法なのか、ひと口にいうと、リンパ球のガン細胞殺傷力を利用してガンをやっつけるというものである。

 

 しかし、この治療を行うには、まず最初にガン患者のリンパ球が、本人のガン細胞に対してどの程度の殺傷力をもっているかを調べてやる必要がある。これがATK活性である。

 

 これには、ガン患者の体内からガン細胞を取り出し、それをばらして放射性同位元素で標識する。そこへ同じ患者から取ったリンパ球を入れて培養し、リンパ球のガン細胞殺傷力をみる。ガン細胞が死滅すれば標識があらわれる仕掛けになっている。

 

 内田教授は、これまでに二〇〇〇人以上のガン患者について、このATK活性の有無を調べている。その結果、どういうことがわかったかというと、ATK活性の有無と、現在のガンの治癒率とが実によく相関していることであった。

 

 たとえば胃ガン患者では七〇パーセントの人がATK活性をもっていた。これは胃ガン全体の数字で、早期胃ガンに限れば九〇ハーセソトにもなるという。現在の早期胃ガンの治癒率は病院によっても異なるが、およそ九〇パーセントなのでぴたり一致している。そのほか、ATK活性をもっている人は、子宮ガンでは七五パーセント、結腸ガンでは六五パーセント。これらはいずれも治癒率の高いガンである。

 

 一方、治癒率の低いガンを見てみると、やはりATK活性をもっている人も少ないという結果が出ている。たとえば膵臓ガンは二〇パーセント、肝臓ガンは五パーセント、スキルス胃ガンにいたってば五パーセント以下となっている。

 

 しかし、これだけではATK活性が実際のガン患者に有効に働いているかどうかを証明したことにはならない。そこで、ガン患者のリンパ球からATK活性の有無を調べ、加えてその患者の手術後の治療経過を追跡して、これらの相関を調べている。とくに早期肺ガンでは二五〇人以上の患者について調べているが、その結果、ATK活性があった人は五年たっても八割以上が再発しておらず、逆になかった人は二年以内に全員が再発していることが明らかになった。

 

 この結果を見て内田教授は驚くべきことを口にする。

 

「最近胃ガンや子宮ガン、大腸ガンなどの早期ガンの治癒率が飛躍的に向上したことから、早期ガンに関しては治療法が成功した、″もうガンは怖くない”といわれますが、はたしてそうでしょうか。

 

 患者のATK活性と治癒率がひじょうにきれいに相関するということは、ATK活性がガンに有効に作用している証しで、何も手術してガンを取らなくてもよかったのかもしれないともいえます。というのは、本当にガン治療法が確立したというのなら、早期ガンも進行ガンも治癒率は同じように伸びてしかるべきはずなのに、伸びているのは早期ガンだけで、進行ガンの治癒率は昔とほとんど変わっていないからです」

 

 実際、医師から「もう少し様子をみてから手術をすることにしよう」といわれた早期ガン患者が、そのまま五年たっても、病状がほとんど変わらず、相変わらず早期ガンのままであったという人もいるという。もちろん、早期ガンを放置してひどくなった人もいるにはいるが。

 

 もちろん、これだけで決めっけるわけにはいかないが、もしこれが本当だとすると、これまでのガン治療の考え方、方法を根底から見直さなければいけなくなる。

 

 内田教授の治療でも、ATK活性をもっている患者ならとくに何の治療も施さないという。だから、ATK活性をもっていない患者が治療対象となる。どんな治療をするのかというと、ATK活性がない人にその活性をつけてやるのである。