新しい薬、免疫療法剤

 

 そこで、このような状況を打開しようとして現れたのが、免疫療法剤、あるいはその流れを発展させた新しいジャンルの「BRM(生物学的応答調節物質)」とよばれる薬である。

 

 免疫療法剤は、クレスチソ、ピシバユール、ノカルディアCWS、レソチナソなど、すでに広く使用されているが、注目されるようになった理由は、ガンのメカニズム研究との関係がある。

 

 ガンという病気は、昔は、体のなかにガン細胞がひとつでもあれば、それが分裂・増殖を起こし、やがて転移して、母体を倒すものと考えられていた。ところが、研究が進むと、問題はそう単純ではなく、ガン細胞があっても、必ずしも「ガン」として発病するのではないということがわかってきた。

 

 これは、体のなかに免疫、あるいは生体防御の機構が働いていて、たえずガン細胞の反乱が起きないように監視しているからだと考えられるようになった。しかし、この力、この機構がなんらかの原因で弱まり出すと、ガン細胞はその虚をついてあらわれ出てくる。したがって、この免疫力をもっと高めてやれば、ガンを抑えることができるのではないか。そういう考えのもとに生み出されたのが、この免疫療法剤である。

 

 BRMは、一九七八年、米国立癌研究所のデビーター所長(当時)が提唱した概念の薬であるが、この免疫療法をさらに発展させて、体が本来持っているさまざまなガンをたたく物質や働きをより強く、より効果的に動員させて、総力戦でガンを攻撃しようというものである。マスコミで話題を呼んだインターフェロンやTNF(腫瘍壊死因子)、プロスタグランジンなどがそれである。

 

 九州大学生体防御医学研究所の野本亀久雄教授も、こうした考えに立つひとりで、免疫療法に代わって、生体防御システムのすべてを利用する「生体防御療法」なるものを提唱している。実際に体のなかでは生体防御システムがどう働いているかを、時間を追って調べた結果をもとにあみ出しだのがこの療法である。

 

 その成果によれば、皮膚の表面のところにもっとも原始的な生体防御機構があるという。まず最初はこれが働き、次いでトラソスフェリソとかリゾチームなどといった活性物質が働き出す。さらに免疫物質の一種である補体、好中球、何でも飲み込んでしまうマクロファージといったものが続き、六番目に原始的な免疫(プリミティブ・アセル・レスポソスとよんでいる)が出動し、最後にもっとも進化した免疫j-異物に攻撃を仕掛ける抗体や、ガン細胞を直接手にかける。殺し屋”キラーT細胞、そのT細胞の働きを助ける役のヘルパーT細胞などが、総攻撃に出るというわけだ。

 

 これは、体内に外敵が侵入してきたときの生体の防御の仕方、働き方であるけれども、ガン細胞という内なる敵への対処でも基本的なものは変わらないのだという。総力戦

 

 こうしてみると、生体はあるひとつの物質だけでガン細胞をたたくという性質ではなさそうだ。役割分担が明確な軍隊や警察と同じように、さまざまな生体物質がそれぞれ役割を全うしつつ、互いに他の物質とも協力し合って一体となって総力戦で戦うのである。

 

 このような観点からいうと、あらゆるガンを一発でたたきのめすような薬ぱないとみたほうがよく、逆に、効き目が弱いからといってすぐ捨て去るのもまた問題のようである。

 

 現在、ガンの新薬は、従来の抗ガン剤よりも作用が大きいこと、具体的にいうと、四〇パーセント以上の有効率が証明されなければ薬事審議会で認可されない。有効率とはガンの縮小効果でみており、それで治るとか命が延びるのとは必ずしも一致しないのだ。たとえばガンが1ヵ月以上縮んでいさえすれば、その後死んでも「有効」となるから、ほんとうの意味での薬の有効性が反映されていないのである。ここに問題がある。

 

 現実にガン患者が苦しんでいるのは薬の副作用の問題であることが多い。だとすれば、効き目が多少下がっても副作用の少ない、役割のそれぞれ違った薬を、種類やTPOによって使い分け、総力戦で戦う、そのような薬があってもいいのではなかろうか。