発ガン因子

 

 何ものかによってガン遺伝子が傷つけられ、ダメージを受けるとアクセルが壊れるのである。そしてその何ものかは、発ガン因子とよばれ、圧倒的に多いのは化学物質である。この世に存在している化学物質は数万以上あるといわれるが、このうち、二〇〇〇種類以上について発ガン性が調べられ、その約半分の物質が動物にガンをつくることがわかっている。

 

 食品添加物や化粧品に使われる着色剤、アフラトキシンなどのカビ、タバコや自動車の排気ガスに含まれている3・4ベンツピレン、アユリン系の色素、アスベス卜。ジメチルアミンを体内に持っている肉類に食品添加物亜硝酸が加えられると、体内で発ガン物質ができることもわかった。

 

 発ガン因子は化学物質だけではない。紫外線や放射線、それにウイルスなどもガン遺伝子をスイッチーオソすることがわかった。

 

 さらに、原因解明のもっと詳細な部分にメスが入れられた。その結果、これらの発ガン因子によって、アクセルが壊れるパターンにもいろいろあることが、遺伝子レベルで明らかになった。

 

 二百でいうと、アクセル、すなわちガン遺伝子に構造的変化が起こって暴走するというわげだが、専門的には、これは″ガン遺伝子の活性化”とよばれている。

 

 その活性化でもっとも知られているのは、「点突然変異」とよばれる現象である。遺伝子に刻まれた「塩基」とよばれる遺伝文字がたった一個抜け落ちたり置き換おったりする現象だ。それが発ガン物質や放射線などで引き起こされる。この現象が、前述の肺ガンから取ったガン遺伝子「Hラス遺伝子」で起こっていた。

 

 たかが一文字の違いというかもしれないが、これは″されど一文字″なのだ。たとえば「バスガ「シル」と「バカガ「シル」とはたった一文字の違いだが、意味はまったく違う。こんなことが遺伝子レベルで起こるのだ。その結果、遺伝子の遺伝情報に狂いが生じ、細胞内部に増殖せよという指令を出しつづけるために、細胞がガン化するというわけだ。

 

 この現象は肺ガン以外でも、大腸ガン、白血病、膀胱ガン、膵臓ガンなどでも見つかっているが、とりわけ膵臓ガンでは高率に見つかっている。

 

 アクセルが壊れるもう一つの要因は、「染色体転座」とよばれる現象だ。人間は二二個の常染色体とXとYの性染色体を持っている。この染色体のあるもの同士が組み換えを起こして、入れ替わるのだ。とくに片方の染色体には免疫の抗体を作る遺伝子が刻まれているのが特徴だ。その結果、正常な遺伝子(プロトガン遺伝子)が暴力遺伝子に変わる。この現象は、アフリカの子供に多いバーキットリソパ腫というガンから発見された。この病気はマラリアとも深い関係にあり、これにかかって体内の免疫力を落とす。そこへこの現象が起こって、ガンが起こりやすくなるのだ。 なぜ遺伝子の組み換えが起こるかというと、われわれが持っている細胞の分化と関係がある。たとえばわれわれの体内では、血球細胞が赤血球になったり白血球になったりするような分化がっねに起こっているが、その過程で、実はDNAの組み換えがたえず起こっている。そのとき、組み換えのエラーが起こると、ガンが引き起こされるのだ。

 

 そのほか、ガン遺伝子のコピーが異常増加する「遺伝子増幅」とよばれる現象も明らかになっている。子供の副腎にできる神経芽細胞腫という遺伝性のガンに多く、この病気が進行すると、正常なプロトガン遺伝子の「Nミック遺伝子」が異常に増えてくる。そのために遺伝子が狂ってガンをより悪性化するらしい。このガンのほか、乳ガン、食道ガンなどで見つかっているが、いずれもガンが進行した場合に起こっているのが特徴的である。