成長に必要な癌遺伝子

 

 正常細胞のなかに潜んでいるガン遺伝子はいったいどんな働きをしているのか。

 

 実に正常細胞のなかでは、ガンとは無縁で、おとなしくマジメな働きをしていたのである。主として細胞の増殖や分化を指令するという働きだが、それ以外にも、他の遺伝子の働きを調節したりする。

 

 つまりどういうことかというと、このガン遺伝子がなければ、どんな細胞も増殖し、成長しないということ、われわれが細胞一個から生まれ、増えて大きくなって赤ちゃんとして誕生し、さらに大きくなって大人の体になるのも、ガン遺伝子があったればこそというのである。

 

 こうしてみると、当初ガンを引き起こす悪漢と思われていたガン遺伝子は、実はちっとも悪玉ではなく、それどころか、われわれにとってはなくてはならないものだということがわかる。となれば、-これはガン遺伝子というよりも、むしろ「生存遺伝子」、あるいはたんに「増殖・分化遺伝子」とでもいうべきものといえる。この点については、欧米では、人体にもともとある正常な。ガン遺伝子”をガン遺伝子の原型(プロトタイプ)という意味から「プロトガン遺伝子」といい、ガンを直接引き起こす″ガン遺伝子″を「ガン遺伝子」といって、きちんと区別されている。

 

 問題は、プロトガン遺伝子だと、細胞が増殖しても、あるところでストップがかかるのに、ガン遺伝子ではスイッチがオソになりっぱなしになって増殖が止まらなくなることである。つまりアクセルが壊れたために車がコントロールを失って暴走してしまうというわけだ。そしてそれがガンという病気の始まりなのだ。

 

 こうした生命の根源にかかわったところでの戦いIそこにガン治療の困難さがある。

 

 なぜ、アクセルが壊れ、暴走車となってしまうのか。

 

 実はここに、ガン遺伝子と発ガン物質、ウイルス、放射線との関係がある。